多重比較法

 多重比較法(多重比較検定)は、独立した群を群間比較するための検定です。
多重比較法はpost-hoc検定(その後の検定)とも呼ばれます。
分散分析で有意差が認められた時、各々の要因(特に群間因子)間に差があるかを細かく比較したい時に利用することが多いためです。
scikit_posthocsパッケージで利用可能な多重比較法は次の通りです。

図 scikit_posthocs(ver.0.6.2)のイントロダクション図を引用

図中、Factorial DesignとBlockDesignで大きく分かれていることがわかります。
Factorial Designは因子(要因)間の分析を意図した分析の考え方で、因子間の関係まで調べることを想定しています。
Block Designはデータの塊の分析を意図した分析の考え方で、要因間あるいは要因を構成する水準間の差を調べるための手法を指します。

scikit-pothocsパッケージには、Dunnett、Williams、Steel、Shirley-Williamsなどのアルゴリズムは非搭載です。
また、多要因の解析にはまだ対応できていないアルゴリズムもあります(例えば、Tukeyで、投与薬剤の種類と投与時期などの2要因データを用いることができないなど)。
よって、本ブログでは1要因の解析で多重比較を行う例を示していきます。
アルゴリズムの選択の方法は以降で説明するチャートに従いますが、多くのアルゴリズムがパッケージには非搭載です。
悩ましいのは、アルゴリズムの向き不向きの判断です。
例えば、Dunnett法は、対照群(例えばプラセボ群)とその他の複数の実薬群で比較したい場合にTukey法よりも感度が良いと言われています。この理由は、Tukey法は全組み合わせを検討するのに対し、Dunnett法は対照群 vs N(実薬群)を比較するアルゴリズムであるためです。
このような場合、どちらの手法を使っても間違いではありません(しかし、より良いと分かっている手法を選択したい気持ちは拭えません)。
このような理由もあり、本ブログにおける多重比較の実践例は、最初から多重比較法を用いるというよりも、post-hocによる利用の流れを意識しました。
基本はpost-hocですが、分散分析では扱っていない順序尺度のデータをSteel-Dwass法で解析する例を紹介します。

フローチャート


実際に分散分析のpost-hocとして多重比較法を実践するとなれば、これまでに述べた一元配置分散分析、反復測定による分散分析、二元配置分散分析のフローチャートで紹介した多重比較法の使い分けに沿って解析を行えば充分と考えます。 これだけでも利用するケースは多いと思われますが、細かく考えると次のフローチャートのようになります。
チャート中、線形対比というものがあります。 線形対比(あるいは、単に対比)は要因をまとめて比較する手法です。 線形対比にはシェフェ法やボンフェローニ法などがあります。 シェフェ法やボンフェローニ法は線形対比のみにしか使えないというわけではなく、正規分布と等分散性が仮定できる場合に多重比較法として利用できます。 線形対比については扱いません。(まだ扱いきれていません)。 多重比較法を実践するときはこれまでに行なってきた差の検定と同じように、正規性を仮定できるかによってパラメトリックの手法とノンパラメトリックの手法に分類し、多重比較法を選択します。

post-hoc実践1


一元配置分散分析で有意だったデータをより詳細に検討したい。テューキー(Tukey)の方法を用いて検証する。 一元配置分散分析のページもご参照下さい。
Tukey の方法には、HSD 検定(Tukey's honestly significant diference test)と WSD 検定(Tukey's wholly significant diference test)があります。 厳密には若干の違いはありますが、どちらを使っても、グループ分散が等しい正規分布データに対して、Tukeyの全ペア比較テストを実行し、すべての群のペアを比較して、分散が等しいと仮定できるかどうかを検定できます。
帰無仮説は、「分散が等しい」となり、両側検定です。
このサンプルデータ(一元配置分散分析のデータ)の結果は、ABCとDとの間に有意差(有意水準1%)を認めました。


このデータでは一元配置分散分析でも有意差を認めていましたが、一元配置分散分析の結果が有意であったときの結論は、「異なる群が少なくとも1つある」ということであり、どの群とどの群とで有意に違うのかはわかりませんでした。
このTukey法を用いることではじめてABCとDとの間に違いがあるということが分かりました。

post-hoc実践2

3群以上の差の検定で、正規性(-)・クラスカル・ワリス検定で有意(+)である場合の多重比較法(DSCF法)を実践します。
一元配置分散分析のページもご参照下さい。
DSCF法(Dwass, Steel, Critchlow and Fligner all-pairs comparison test)は、全ての対比較を同時に検定するための多重比較法です。
DSCF法はSteel-Dwass法(Mann–Whitney U test(=ウィルコクソンの順位和検定)のアルゴリズムを多重比較用に拡張したもの)を改良したアルゴリズムです。
対応のない2群のデータの組み合わせについて、分布の同一性を検定します。
対応のない2群のデータについて、2群をあわせて値の小さいデータから順位をつけます。
同順位の場合は該当する順位の平均値を割り当てます。
例えば、1位のデータが1個、2位のデータが2個ある場合、2位のデータには2位と3位の平均から2.5位を割り当てます。
2標本それぞれのデータの順位和とサンプルサイズから、U統計量を求めます。
両側検定のみ行い、Uが統計数値表の有意水準以下の場合は帰無仮説「2標本の間に差がない」が棄却され、対立仮説「2標本の間に差がある」が採択されます。


post-hoc実践3

3標本以上の差の検定で、正規性(+)・等分散(-)・Welch-ANOVAで有意(+)の場合の多重比較法(Games-Howellの方法)を試します。
一元配置分散分析も参照してください。
Games-Howellの方法は、全ての対比較を同時に検定するための多重比較法です。
帰無仮説は「平均に差がない」です。


post-hoc実践4

順序尺度データの多重比較検定(DSCF検定)です。
ある臨床試験を行った結果、対応のない3群から、主観的なスケール評価結果が得られました。スケール評価は順序尺度であるため、パラメトリックな多重比較法として、Steel-Dwass法の改良版であるDSCF法(Dwass,Steel, Critchlow and Fligner all-pairs comparison test)を選択しました。
3群で比較を行いたいと思います
この手法は群の間で差がないという帰無仮説で、どの群とどの群の間に差があるかを判定するためのものです。


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